| ハイスクールクラッシャー (文:BOMBERさん) 『健にい、おはよ!」 バン! いつもの朝の通学路、自転車が一台脇を通り過ぎると同時に凄まじい衝撃が俺の背中を襲った。 「ゴホッゴホッ!ばかやろ、馬鹿力で叩くな、背骨が折れるだろ。」 俺の声に自転車が急ブレーキを切ってUターンしてとまる。 「なんだよ、健にい鍛え方が足んないぞ。」 「あのなあ、今のお前に叩かれて五体満足でいられる中学生がいたらお目にかかりたいよ。」 俺の講義もどこ噴く風で笑う自転車の少女、しかしその姿は凄まじい。 自転車にまたがる中学生の少女はまるで肉の鎧を何十にも纏ったかのような凄まじいボリュームで、鋼鉄製の自転車が今にも押しつぶされそうに悲鳴を上げている。 セーラー服は今にも引き裂かれそうで巨大な胸の谷間はほとんど露になっていて目のやり場に困る。 肩に担いだボクシンググローブが彼女がただの筋肉ダルマでないことを証明している。 「いたら困るよ。殴り倒さなきゃならないから。」 そういって不敵な笑みを浮かべる優美、拳を振るってシャドーボクシングをしてみせる。 「さあ乗りなよ。遅刻するよ健にい。」 「乗れるわけないだろ。お前一人でもう潰れる寸前だぞ。」 「健にい一人乗っても変わんないよ。ああ、めんどくさいなあ。」 ひょいとかばんでも持つように俺を持ち上げる優美、抗議も無視してそのまま後ろに乗せると学校へ向けて疾走する。 『お、おい馬鹿やめろ!』 立花優美は俺の幼馴染、というよりも妹みたいなものだ。 子供の頃は泣き虫でよくいじめられていたのを俺がかばってやってから兄のようにしたってついてくるようになった。 変わったのは小学校に上がってからだった。 優美の母親は元ボクサーで優美が小学校に上がってからボクシングのトレーニングを始めた。 元々優美の母親はごつい体をしていたが優美もそれを受け継いでいたようでたちまちムキムキに鍛えられていったけど、それがとまらなくていつしかとんでもない肉体に育ってしまっていた。 それでも小学校の間はただ小学生離れしたごつい女の子というだけだったが、中学入学と同時に全てが一変した。 中学に入って優美は正式にボクシング部に入部したのだ。 俺達の通う拳聖中学は元々ボクシングの強豪校だった。 歴代のインターハイチャンピオンやオリンピック代表を輩出した事もある名門に、初の女子の入部願い。 もちろん認められるはずはない。 顧問、理事長、担任揃って優美の入部を拒否したのはあまりにも当然のことだった。 だが優美は引き下がらなかった。 女子ボクシングの経験者でもある体育教師の美咲先生が味方してくれたこともあり優美はボクシング部へ直談判に行ったのだ。 「なんでアタシの入部を認めてくれないんですか?」 「だってなあ、おい。女がボクシングなんてなあ?」 真剣な優美の言葉にも顧問は薄ら笑いを浮かべて他の選手たちを見やる。 「無理っすよ。女にボクシングなんて。」 「名門拳聖の名に傷がつきます。」 口々に言う選手たち、それを満足そうに受けてボクシング部顧問は優美に向かって宣告した。 「ってわけだ。女子なんかに入部されて試合なんかに出してみろ。絶対男のボクサーに勝てるわけないだろ。 無様にKOされて伝統あるわが拳聖中学ボクシング部が恥をかくのは御免ってわけだ。 ボクシングは強いものだけのためのスポーツなんだよ。分かったら帰りなさい。」 変わらず薄ら笑いを浮かべながら優美を突き放して聞かせる顧問、しかし優美に向かってしゃべっているうちに背中をどんどん冷や汗が伝わっていく。 なぜだろう、疑問に思いながらハンカチで汗を噴く顧問。 ふと、半そでからはみ出しているぶっとい腕を見て顧問は驚く。 (こ・・こいつ・・・なんて腕だ。) 「恥をかかせなければいいんでしょ、先生。」 「ど、どういう意味だ。」 ここに来て顧問も気づき始めていた。セーラー服に包まれているので気に留めなかったが、目の前の少女が・・・・『大きい』ことに。 「先生言ったじゃないですか、ボクシングは強者のスポーツだって。」 自信に満ちた優美の声、美咲先生も大きくうなずく。 顧問はどんどん冷や汗が流れてくることに不信を抱きながら、何か取り返しのつかないことを行ってしまったような不吉な不安にかられ、前言を撤回したくなり始めていた。 (ば、ばかばかしい。こんな小娘におびえるなんて俺はどうかしてる。) 「教師としては今おっしゃったことを証明する必要があるんじゃないですか、顧問?」 ずっと余裕ありげに黙っていた美咲先生が割って入る。 「ど、どういう意味です?」 「簡単なことですわ。おたくの選手と優美を・・・・。」 「試合させてよ。」 美咲先生の話に割ってはいった優美はとんでもないことを平然と言ってのけた。 「な、なに言ってるんだ。そんなことできるわけ・・・。」 「いいじゃないですか、顧問。」 「大丈夫っすよ。俺ら紳士だから。」 「そうそう、まあ大口叩いたことは後悔することになるだろうけどな。」 優美の不敵な話と態度に切れかかっていた部員たちが口々に言い出す。 「お、おまえら・・・。」 「決まりですね、顧問。おたくの選手も優美も闘いたいみたいだし。 さっきの話を証明するためにもここはやらないわけには行かないでしょ。し・あ・い。」 美咲先生の言葉に顧問も仕方なくうなずく。 「おい、おまえら。無茶するんじゃないぞ。怪我させたら父兄がうるさいからな。」 「分かってますよ。」 「へえ、父兄がうるさいんだ。じゃ、程ほどにしとかないとね。」 優美の不敵な言葉は美咲先生にしか聞こえなかった。見詰め合ってにいと笑う二人の姿にボクシング部の誰も気づいてはいなかった。 「じゃ、着替えてくるね。」 そう言って優美は更衣室に姿を消す。 「おまたせ〜〜。グラブは貸してくれるよね?」 もちろんボクサー用のトランクスやシャツなど持ち合わせない優美、ブルマに体操服で更衣室から出てきたのだが、その姿にどよめく選手たち。 体操服のそでから飛び出した丸太を何本も束ねたような腕、体操服を今にも突き破りそうなほどビチビチに張り出した中学生のものとは到底思えない大人の顔以上の大きさのバスト、ブルマから突き出した筋肉の束を集めたようなはちきれんばかりの太もも、どれをとっても中学生というよりも人間という種族の枠をぶち破るけた外れの肉体がそこにあった。 「あ・・あああ・・・・。」 「どしたの?早くグラブ貸してよ。私赤いのがいいなあ。あの白い線の入った16ozなんか駄目だからね。最低8ozにしてよ。 それと、体重量ってくれないかな。ウェイトの合う人とやらないとね。優美どんどん体重増えちゃうからつい先週計ったんだけど変わってると思うし。」 一番年下の選手が皆が呆然とする中弾かれたようにあわてて体重計を出してくる。 「ありがと。」 優美は軽く礼を言って平然とその上に載る。 「!!」 声にならない声を上げて体重計を呆然と見つめる最年少の選手(それでも優美よりは上のはずだ。) 「いくつかな?教えてよ。」 「2、286パウンド・・・・です。」 「に、に、に、にひゃくは、は、はちじゅう・・・ろくぅうう???」 完全に声が裏返る顧問、もちろん選手たちもこの上なく狼狽している。 「へ、ヘビー級かよ!」 「そ、それにしたって中学生で200パウンド越えるやつなんてい、いないぜ。」 「ど、どうするよ・・?」 「しゅ、主将しかいないだろう。ミ、ミドル級で一番重いし。」 「そ、それにしたって160パウンドだぜ・・・。」 「お前ら、がたがたうるせいぞ!女子相手なんだぞ。体重なんか関係あるかよ。 まあ、俺が相手するのが順当みたいだけどな。」 そう言って部員たちを一喝して制したのは主将の高山龍二だった。インターハイのチャンピオンでオリンピック候補、間違いなくミドル級では国内最強、いや下手をすれば世界最強かもしれない。 「ってわけだ、お譲ちゃん。俺が痛くない程度にかわいがってやるよ。」 「ああ、誰でもいいんだけどね。お兄さんで我慢しとくか。」 「てめえ、俺様が誰だかわかってんのか?ああん? インターハイチャンピオンの高山龍二様だぞ!」 「関係ないよ。ボクシングは強いものだけのスポーツなんでしょ?それとも強さってのは口のことなの?」 「・・・!!!」 高山の顔が怒りで真っ赤になる。 「おい、ヘッドギアはどうした?」 「うん?あれ邪魔なのよね〜。それよりお兄さんこそつけなよ。 アタシのパンチ・・・危険だよ。あはっ。」 「おい、下げとけ。」 龍二は後輩に向かって着けかけていたヘッドギアを投げつける。 バンバン!! 優美は拳につけた真紅のグラブを何度も打ち合わせて悦にいっている。 試合用のグラブをつけるのが初めてなら本ちゃんの試合ももちろん初めてなのだ。 しかし気負いは微塵も感じられない。 気負っているといえば青いグラブを身につけしきりにこぶしをぶんぶん振り回している龍二のほうだろう。 「先公が何言っても知るか。ぶっ潰してやる!」 トランクに上半身裸の龍二は中学生とは十分すぎるほどの筋肉をつけたたくましいボクサーだ・・・・が目の前の少女は優美だ。 レフリー役を務める顧問がリング中央に二人を呼んで注意を与えるとその対比が鮮やか過ぎるほど浮かび上がる。 頭二つほど高い龍二が見下ろす形なのだがボリュームが違いすぎて優美の後ろから見ると龍二の頭だけが出てるような格好になる。 筋肉でボクシングができるものかと高をくくっていた龍二も目の前の肉弾から生じる凄まじい圧迫感に背中をだらだらと汗が流れ伝っている。 顔だけ見れば整った顔立ちの愛らしい少女でもう2,3年すればいい女になること間違いないという感じなのだが、首から下に目を移すとそこには女子中学生などいない。 鍛えられて肉体はもちろんだが豊かなあまりにも豊か過ぎるバストは完璧なまでの球体を保ち体操服を張り裂けんばかりに押し上げその谷間はとてつもなく深い。 その一方でかもし出す”女”の部分が龍二に更なる緊張を強いていた。 カーーン!バギィイイイ!! ゴングが鳴ると同時に先制したのは龍二のほうだった。 インターハイを制した拳が優美の顔面に思い切り炸裂する。 先輩やっちまった、女の子相手に、あのこ大丈夫かよ、いきなりのクリーンヒットに部員たちが口々に心配の声を上げる。 しかし・・・。 「ニィ」 龍二のパンチをまともに顔面に喰らいながら優美はなんと満面に笑みを浮かべてる。 「ふふふ、もう。いくら女の子相手だって手を抜かないでよね。」 なんだそうか、先輩もなんだかんだ言って女の子相手だもんな、と部員たちは優美の言葉をその額面どおり受け取る。 「このやろう!!!」 一人事態がよくわかっている龍二は雄たけびを上げて優美に殴りかかる。 ビシ!バシ!ドス!バス!ビシ! おお、主将本気になったか!やんやの喝采を浴びせる部員たち。しかし・・・ ゴス!ドス!バス!ベシ!バギ!・・・・・ 続く主将のまったく手抜きしているようには見えない猛攻に次第に部員たちも騒ぎ出す。 しゅ、主将頭に血が上ってるんじゃ、部員達の心配の声をよそに100発近いパンチが雨あられと優美に炸裂する。 お、おいやばいんじゃないか?あ、ああ。み、美咲先生!とめないと! 優美が滅多打ちになる様に部員たちは一気に慌てだし美咲先生にも試合を止めるよう叫ぶが、美咲先生はどこ吹く風でリングサイドから顧問が試合を止めないように睨み付けている。 それにしてもなぜ優美はダウンしないのかその不自然さに気づいていた部員はほとんどいない。 「つはぁ・・はあはあ・・。」 さすがに打ちつかれたのか龍二がパンチを止める。 誰もが、崩れ落ちるズタボロの優美を想像して息を呑む。 しかし優美は平然と立っていた。 |
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「あれ、もう疲れちゃったの?」 コキコキ 傷ひとつなく、退屈とばかりに首を鳴らす優美に龍二の表情が驚愕から恐怖に変わる。 「うそだぁあああ!!!!」 雄たけびと共に打ちかかってくる龍二になにをそんなに興奮してるのか分からない優美は不思議な様子。 「優美、いいわよ。」 美咲先生の短い言葉に優美の顔に笑みが浮かぶ。そして・・・。 ビュゥウウンン!!! 龍二のパンチは優美の頭上高くを風を切りながら飛んでいった。 ダッキングでかわした優美の赤いグローブが無造作に龍二のボディに吸い込まれていく。 ドバゴォオオオオオオオ!!!! ミドル級の龍二の体が優美より高く打ちあがり。 「げぼぼぼおおおおお!!!」 血反吐をぶちまけながらキャンバスに叩きつけられる。 ドガシャァアンンン!!! 「ええげえええええ!!!」 絶叫と共にキャンバスをのた打ち回る龍二、インターハイチャンピオンの決して試合では見せたことのない悲惨な姿に部員たちは一同声を失う。 |
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リングから顔を出して激しく吐きまくる龍二、当の昔にテンカウントに達していてもおかしくないのにカウントは取られていない。 『な、なにやってる。た、立ち上がれ高山!」 「あ・・あがぁ・・。」 面目を失って叱咤する顧問の声に立ち上がる主将、しかしその立ち上がった姿に部員たちは言葉を失う。 鋼鉄の肉体とまで恐れられた龍二の自慢の腹筋が優美のパンチが炸裂したところが陥没しているのだ。 ロープを掴んで立ち上がるのが精一杯の龍二の姿をよそに美咲先生が優美の耳元に何かささやきかえる。 「ファ、ファイト!」 「む、む、むりっす、顧問!だ、だめだって・・あ・・ああ・・・あがばぁああ!!!ごべあぁぼごごぼる!!!だ、だずげでぇ・・ぐぶぶごばぎげぇ!!」 救いを求める龍二の声を掻き消す優美のパンチの雨に人のものとは思えない絶叫がリングにこだまし、次第に人でないものに殴りかえられていく。 美咲先生が言った言葉、それは・・・「一撃で終わらすな。連打で沈めなさい♪」だった。 もちろんその後優美がボクシング部への入部を認められたことは言うまでもない・・・。 |
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